般若:我々の歴史はエネルギーをどのように駆使し得たかの歴史ですね。大昔は、人間そのものがエネルギーで、自分自身だけで動き、そして、働いた。やがて自然と人間のあいだに技術が出現した。僕らが感心する技術は、自然から掘り出したものを鉄とし、そしてまた、遠い昔、車輪をこしらえたことですね。今まで背中に背負っていたものを車輪に乗せて運べば、家族から村、村から国、国から世界へと、意識と物質の交流は大きく、さらに大きく拡がらざるを得ない。古代社会も、封建時代になっても百姓はまだ奴隷で、それが人間社会の基本的なエネルギーだったのですね。ところが、馬が馴致されて馬車になり、ワットの蒸気力発見以後は、それによってもたらされる熱が、車輪をまわす汽車になり、工場のベルトになりピストンになり、その産業革命以後、技術はすごいテンポで発展し、原動力の石炭は石油となり、石油は核分裂になって、現在の生産力はファラオがピラミッドを奴隷労働で築いたときから数兆倍になっているでしょう。アレキサンダーが馬で、ダリウスが馬車で、そして、兵隊はすべて徒歩で歩きながらインダス河まで赴いた時代に較べると、現在の引きこみ車輪をもったジェット飛行機は、数千倍早くボンベイからアテネまで着けるでしょう。生産力は驚くべき発展をしたのです。ところが、それに応ずべき生産関係の変化はこれまた驚くべきほど遅々としてい